【はじめてのコーチング】コーチングって何?③ コーチングはいつから流行っている?歴史と社会的背景

「コーチング」についてより深く理解するために、今回の記事ではコーチングの歴史を辿ります。「コーチング」という手法がどのように生まれたのか、またなぜ昨今ニーズが日本社会において高まっているのか、その背景を探っていきます。

コーチングの歴史

コーチングがその名で呼ばれるようになってからの歴史は、人類の歴史と比べればほんの一部ですが、2者が対話を繰り返しながら答えを見出すという方法自体は人が「言語」を獲得した時から行われていることでしょう。では「問い」と「答え」が歴史の資料に最初に登場したのはいつでしょうか。答えは、古代ギリシャ「哲学」が産声をあげはじめたころのことです。

古代ギリシャの学者達は皆「道」を求めていました。「世界はどうなっているのか」「正しさとは何か」「争いはなぜなくならないのか」。人はいくつもの大きな問いを「哲学」によって解決し、共通の概念を作ろうとしたのです。古代ギリシャの哲学者たちは、それを「議論」によって導こうとしました。「会話を重ねれば重ねるほど、より正しいものがふるいにかけられて残るに違いない」としたのです。しかしある人物の登場で、哲学の議論は大きく形を変えます。その人物こそ「ソクラテス」。彼は「そもそも議論している人間それぞれが自分自身を知らないのでは」と人々に訴えかけました。こうして、大義や外に向かっていく哲学だけでなく、個々の内面を深堀りする哲学が生まれたのです。この「個人」の問題を議論する上で用いられたのが「ソクラテス式問答法」でした。「ソクラテス式問答法」を説明しようとすると、それだけで奥深く、キリがなくなってしまうため、かいつまんで紹介しますが、2者があるテーマについて議論する時、相手が出した答えの問題点を細かく指摘するのではなく、なぜその答えに至ったのかをお互い問い続けていくという方法です。

科学が発展した今も、哲学で扱うような問いに答えは出せません。しかし、私たちが「友人とはどんな存在か」「本当の正しさ」を考えたり議論したりする時、そこにはそれまで生きてきた経験という「個」による意見があり、全人類に対する答えは見つけられなくても、「自分なりの考え」に出会えるはず。それもまた哲学問答なのです。

コーチングもまたこの「問答」の形をとっており、その歴史はここまででご紹介したように、古代ギリシャから始まってはいるものの、今もなお身近な問いでもあるものなのです。

コーチングと数字が表す社会的背景

コーチングが現在のような形をとりはじめたのは、1980年代初頭。アメリカの金融アドバイザー、トマス・レナード氏は「金融面」のアドバイスをする中で、組織が抱えている本当の問題は財政面ではなく、その組織を構成する個人にあるのではないかと考えるようになります。そこで彼はそのアドバイザーとしての立場を利用して、心理学に基づいたメンバーひとりひとりのサポートを始めました。メンバーそれぞれが抱えている問題に向き合い、それを「コーチング論」として形成していったのです。

プロのコーチがクライアントから料金をとって行う「エグゼクティブコーチング」は調査によれば、ヨーロッパの企業の88%、イギリスの企業の95%が利用しているそう。世界各地で働いているコーチの数は7万人に達し、世界中には200を超えるコーチのトレーニング機関ががあるそうです。2000年には学術的にもコーチングが認められるようになり、初頭以降大学生や大学院生用のコーチングクラスが増加していきました。

現在日本では、職種別のコーチングサービス、社内での役職別コーチングサービス、またメンタルヘルスにおける専門分野別のコーチングサービスなど、より「専門性」の高いコーチングサービスが増えていっています。それは「コーチング」が「個」の問題と向き合うための手法であることを考えれば当然の流れであるとも言えます。

次回は、そんな世界で広がる「コーチング」が、なぜ親子問題の解決にあった手法なのか、またQuorumが「コーチング」を通じて何を提供できるのか、ご紹介していきます。


参考文献

英治出版『コーチングのすべて――その成り立ち・流派・理論から実践の指針まで』ジョセフ オコナー著